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ADHDの原因は分かっているの?

更新日 2021.10.24 発達障害とは


ADHD(注意欠如・多動症)とは、多動性・衝動性、不注意が原因で起こる問題が、日常生活や学校生活など、2か所以上の場所で6か月以上に渡り続くことと定義されています。さまざまな研究により、ADHDの症状は、何らかの理由によって正常な神経発達が阻害されることによって、脳の働きに偏りが起こることが分かってきました。脳の働きに偏りが起こる原因は、遺伝的な要素と環境的な要素が複雑に作用しあっていると考えられていますが、そのすべては解明されていません。また、親の育て方や愛情不足は、ADHDの発症と関係ありません。現在、世界各国で行われている研究を基に、ADHDの原因について考察します。

神経生物学的要因 

ADHD発症の直接的な要因となるのは、何らかの原因によって起こる先天性の神経の発達や脳機能の障害だと考えられています。ヒトの脳には千数百億を超える数の神経細胞があり、ノルアドレナリンやドパミンなどの神経伝達物質が、神経細胞同士の情報のやり取りをサポートしています。ADHDを含む自閉スペクトラム症(ASD)は、神経細胞の増え方や神経伝達物質の量、働く場所などに障害があるといわれています。しかし、神経の発達や脳機能に障害が発生するタイミング、ADHDを引き起こす直接的な要因のすべては解明されていません。

生まれた後に、外傷によって脳にダメージを受けた、病気によって脳神経の発達が阻害されているなど、原因がはっきりしている場合は、ADHDの特性が見られるケースでも高次脳機能障害と診断されることがあります。

遺伝的要素 

親が統合失調症などの精神疾患を患っている場合、子どもがADHDを含む発達障害の特性を持ちやすいこと、きょうだい間においてADHD発症リスクが高いことから、ADHDと遺伝的要素の関係は有力視されています。しかし、必ずしも遺伝するとは限らず、また、親やきょうだいにADHDの特性がない場合でもADHDの特性を持って生まれる場合があるため、遺伝的な要素だけでADHDが発生するとは断定できません。現在では、遺伝的要素と環境的要素が複雑に作用しあってADHDの特性が顕在化すると考えられています。

染色体要素 

ヒトには22対の常染色体と1対の性染色体があります。性染色体がXYの組み合わせで男性、XXの組み合わせで女性になります。ADHDと診断される方には性差があり、男性(男児)に多く見られます。ADHDを含む自閉スペクトラム症(ASD)全体でも、男性の発症率が多いことから、性別を決める染色体がADHDに関係していると考えられています。

Y染色体が通常よりも1本多いヤコブ症候群(47.XYY 出生男児の1/1,000に発生)、X染色体が1本多いクラインフェルター症候群(47.XXY 出生男児の1/500に発生)、2本のX染色体のうち1本の全体または一部が欠失しているターナー症候群(出生女児1/2,500に発生)、脆弱X症候群(男児 1/4,000、女性1/8,000に発生)などの疾患でも、言語や認知の障害によってSLD(限局性学習症)の併存、ADHDの特性が見られます。

ホルモンバランス 

ADHDを含む自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持っている人のホルモンは、ASDの特性を持たない人に比べて、量の過不足が大きいことが分かっています。マウスを用いての研究ではありますが、2021年、東北大学は、甲状腺ホルモンが脳の発達に関わっていると研究発表しました。

また、女性の授乳や出産に関わるホルモンである「オキシトシン」がADHDの特性がない人と比べて少ないことが分かっています。出産後のお母さんにオキシトシンの増加が見られることから、人との絆に関わるホルモンともいわれています。こちらの研究(https://www.amed.go.jp/news/release_20180629-02.html)では、オキシトシン経鼻スプレーを使用したASDの方の対人関係に変化があったことが報告されています。

環境的要素

妊娠中の喫煙やアルコールの過剰摂取など、胎児期の環境によって、脳および神経の発達が阻害されることがあります。

生まれてから、親やきょうだいなど、一緒に生活をする人間がADHDの特性を持っている場合、ADHDの特性が見られることがあります。これは、ADHDの特性を持つ人から行動を学ぶことによって、ADHDの特性に似た行動を学習することが原因だと考えられています。

集団生活や活動時間(朝が早い、夜遅い)など、環境がその人の特性に合わない場合、ADHDの特性が強く出ることがあります。その人の特性にあった環境調整をすることで、特性を活かすこともできます。

ウイルス感染によるもの

先天性風疹症候群、サイトメガロウイルス感染症(ヘルペスウイルス感染症)など、妊娠中の母子感染によって発生するウイルス感染症が発達異常の原因となることがあります。

先天性風疹症候群は、親となる人への予防接種(麻疹、ムンプス、風疹[MMR]混合ワクチンが一般的)を実施することで、現在はほとんど発生が見られません。サイトメガロウイルス感染症を引き起こすヘルペスウイルス5型は、多くの場合は無症状ですが、胎児期や免疫力低下時に感染すると重篤な症状を引き起こすこともあります。

胎児期のウイルス感染は、脳の発育や神経の発達に影響を及ぼし、知的障害や学習障害など、ADHD、ASDの特性を発症させることもあります。

今後の研究に期待

ADHDは、主に脳の機能や神経発達に偏りがあることで発症します。現時点では原因のすべては解明されていませんが、近年、脳の研究が著しく進んでおり、今後はさらに詳しい原因の特定が進むことが期待されています。

しかし、原因の特定も大切ですが、当事者が自分らしい人生を送ることが何よりも大切なことです。私たちは、お子さまとお子さまを支えるご家族のみなさんをサポートしています。お子さまの発達で気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。

参考文献

https://www.cdc.gov/ncbddd/adhd/facts.html#Causes

https://www.cdc.gov/ncbddd/adhd/facts.html#Causes

https://www.msdmanuals.com

Risk of Psychiatric and Neurodevelopmental Disorders Among Siblings of Probands With Autism Spectrum Disorders Doi:10.1001 / jamapsychiatry.2016.0495

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/03/press20210325-02-hormone.html

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