更新日 2022.4.2 支援
4月2日は、国連の定めた世界自閉症啓発デーです。さらに、4月2日〜4月8日は発達障害啓発週間とされています。セサミストリートに登場する自閉症の特性があるキャラクター、ジュリアのポスターを街で見かけた方も多いのではないでしょうか。
米国疾病予防管理センター(CDC) の 2021 年の調査では、44 人に 1 人が自閉スペクトラム症(発達障害 の 1 つ)であるとされています。日本の調査では、文部科学省が平成24年に公表した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」において、公立の小中学校の通常の学級に在籍する児童生徒のうち、学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合が推定値で6.5%存在するといわれています。
このように、診断はつかずとも、発達障害の特性がある人も含めると、かなりの数が「発達に関わる支援(以下、 発達支援)」を必要としているわけです。
今や「発達障害」は、大きく認知も広まり、支援機関も以前に比べてずいぶん増えました。多様性を尊重したり、「合理的配慮」といわれるような、障害特性に合わせた配慮を社会の側がしていくのだという考え方や事例も、少しずつですが広まってきています。
しかし一方で、もし、「我が子が発達障害かも知れない」と感じた時、それをどう捉え、我が子のために何ができるのか、すぐに答えを見つけられる人はとても少ないのではないでしょうか。
実際、筆者がこれまで関わってきたご家族の中には、子どもの発達が気になり始めてから、有効な支援にたどり着くまで、1年以上もかかったという人が少なくありません。「早期支援」が重要であることは、もう随分前から指摘されているにもかかわらずです。
そこに一体どんな紆余曲折があるのかを知っていただくだけでも、今まさにお子さんの発達のことでお悩みの保護者の方に、一つの見通しを示せるのではないかと思い、「発達が気になる子育て・曲折浮沈(きょくせつふちん)すごろく」を作りました。
発達支援が必要な子どもを育てることは、複雑で曲がりくねった道を進みながら、色々な出来事に状況や気持ちも浮き沈み、まさに曲折浮沈だなと思い、この名前をつけました。
このすごろくを製作するにあたり、まずは草案を出して、筆者の所属するNPO法人に関わってくださっている保護者の皆さんにご意見をいただき、それを反映させていきました。ぜひ実物をご覧ください。どこかに転載いただくことも歓迎します(著作権は放棄していません)。
ご覧いただくと気づくように、このすごろくは、前にコマを進めることを諦めてしまいそうになる、いろんな局面があります。それは、保護者の「障害」に対するネガティブな思いや不安だったり、周囲からの安易な言葉かけ(もちろん悪気はないもの)だったり、自治体の情報提供の不足だったり、専門機関の予約の取りづらさや枠の不足だったり、様々です。
本記事では、この大変なすごろくを少しでも前向きに進めていくためのポイントをお伝えするとともに、社会に必要な変化についても説明したいと思います。この情報が、一人でも多くの悩める保護者の方に届き、お子さん一人ひとりの発達特性に合った学びと育ちができる環境づくりにつながることを願います。
ネットの情報などを見て、我が子に発達障害があるかも知れないと感じている保護者の方の中には、「まず医療機関にかかって診断を受けるべきか」と考える方が結構いらっしゃいます。もちろん、はじめに相談する先が医療機関でも良いのですが、これは「ハードルが高い」と感じる方も多いのではないでしょうか。
そんなときは、ぜひ地域の発達相談窓口にご相談ください。発達支援というのは、診断がなければ受けられないものではなく、今、発達のことで気になることがあり、日常生活で困っていることがあれば、手続きを踏んで受けることができます。発達相談にかかったから、何か診断がつくようなものでもありません。小さいお子さんの場合は特に、発達の個人差が大きい時期なので、明確に診断がつかないケースも多いです。診断が明確になってから支援を始めようということでは、支援のタイミングがすごく遅くなってしまいます。
発達支援は、お子さんの発達的な特性を丁寧に把握して、何が得意で、何は苦手で、どんな関わり方や環境づくりがあれば、より楽しく学びやすくなるのかということを、専門家と一緒に考えて実践していくことです。これは、障害の有無にかかわらず、すべての子どもたちにとって望ましいことです。
ぜひ、ハードルが高いとは感じないで、相談窓口に気軽に相談されてみてください。そうやって少しずつ支援を進めていく中で、必要があれば、信頼できる医療機関にかかることをお勧めします。
これは、資源の側の課題なのですが、自治体によって、相談にかかったときの情報提供の内容や量が違うということがよくあります。行政の運営する療育センターなどの支援枠には限りがあり、利用希望者も多い上に公平性も担保しなければならないため、すぐに十分な支援が受けられないことがよくあります。そのため、月1回の面談や親子教室など、頻度の低い、経過観察に近い支援に留まってしまうことがあります。これは、自治体の予算や方針によって、現場の担当者にはどうしようもないことかも知れないのですが、民間サービスも含めて様々な選択肢があるという情報は、できれば早い段階で教えてほしいです。
本来なら、突然のことに動揺して、将来の不安に苛まれている保護者が、自分で情報を取りにいくエネルギーなどないのが普通です。こんな時こそ「必要な支援が向こうからやってくる」状態が望ましいのですが、残念ながら現状ではそうはいかないことが多いです。
「行政の相談にかかったから安心」とは考えず、気になることはどんどん聞いてみましょう。相談窓口の担当者は、保護者の不安な気持ちに寄り添うことを大事にしていて、急に支援を勧めるとショックを与えてしまうのでは、という配慮のもと、情報を出すタイミングを伺うことがあります。逆に、保護者に情報を受け取る意思やニーズがあることが分かれば、より具体的な情報を開示してくれるでしょう。
また、相談の担当者だからといって、専門家だからといって、その人が言うことがすべて正しいとは限りません。お子さんの発達特性もご家族の状況も本当に千差万別ですので、フィットする支援のあり方も少しずつ異なります。
一人の専門家に言われたことがすべてと考えず、迷った時は、お子さんの様子や特徴をよく観察して、何があれば生活がもっと楽しく、過ごしやすくなるか、何かを学びやすくなるか、家族の軸で考えてみてください。相談できる機関は一つではなく、探してみると今はいくつもあります。気軽に相談でき、困った時はちゃんと頼れる先を、ぜひ見つけてください。
筆者の所属する法人でも、全国からのご相談を受け付けています。お子さんの発達が気になるモヤモヤの時期から伴走しますので、ぜひ一つの相談先として頼ってください。
最後に、このすごろく製作にあたり、保護者の方にご意見を求めた際、こんな言葉を寄せてくださった方がいらっしゃるので、ご紹介させてください。
「『元気な普通の子』を育てる人生」から
「『普通では生きづらい子』を育てる人生」に移行するには、
相当な知識や覚悟が必要です
あまりにも鋭く核心を突く言葉で、正直ここに掲載するか迷いました。でも、この機会に是非、多くの悩める保護者の方や、それを支える周囲の方にも知ってほしいと思いました。
本当は、そんな大変な知識や覚悟などなくても、生まれながらに誰もが発達特性をもっていることが当たり前の認識になり、特性に合った学び方・育ち方が保証される社会になることが望ましいと思います。
そういう社会が、少し先の未来には実現できると思います。今、教育の領域を中心に、個別最適化された学習の重要性が盛んに議論され、デジタルデバイスの浸透やテクノロジーの発展も相まって、少しずつ、しかし着実に社会が変わっています。
しかし、発達特性のある子どもたちに社会が追いつくまでには、もう少し時間がかかります。それまでの間は、保護者を中心に、周囲の人が対応を学びながら特別な配慮をしていく必要がありますし、この言葉にあるとおり、「相当な知識と覚悟が必要」ということになるのだと思います。
現状のままでは、発達特性が強いと、不便なことや大変なことがまだまだ多い社会ですから、「障害=ネガティブではないですよ」「大丈夫ですよ」と太鼓判を押せないのは、社会の側の課題です。でも、それはお子さんに問題があるわけでも、家族が悪いわけでもありません。変化の遅い社会の一歩先をいく子どもたちが、「ありのまま」に学び暮らせるよう、私たち社会の価値観は、「ありのまま」から脱却していかなければいけないと、改めて強く思わせてくれた言葉でした。