いつでもどこでも専門家に相談できる安心を —
プロジェクトマネージャーが語るオンライン発達相談の未来
子どもの発達についての不安や疑問を抱える親は少なくありません。しかし、相談窓口へのアクセスや専門家とのつながりには時間や心理的なハードルがつきまとうこともあります。そんな状況を変えるべく、特定非営利活動法人ADDSが提供するオンライン発達相談窓口「kikotto(キコット)」は、LINEチャットやZoomを活用し、専門家に気軽に相談できる仕組みを実現しています。経験豊かな発達支援の専門家が、個々の子どもの状況に応じた具体的なアドバイスや情報提供を行うことで、家庭での子育てのヒントや次の一歩を一緒に考えるサポートを行っています。本記事では、kikottoのプロジェクトマネージャーである本多恵理に、その誕生背景や理念、これからの展望について伺いました。

本多恵理
kikotto事業プロジェクトマネージャー/法人営業担当/公認心理師
小学校教諭として勤務ののちADDSに入職しました。ADDSではセラピストをしながら独自事業にも携わるようになりました。今はkikottoの事業や外部向けの研修事業、ADDSと協同してくださる法人様との連携の窓口となるような業務をしています。
kikottoを開発した背景や目的について教えてください。
kikottoは、コロナ禍により自治体の発達相談窓口が閉鎖され、最初に相談できる場所がなくなってしまったことをきっかけに開発しました。もともと発達に関する相談は心理的なハードルが高く、対面での相談に踏み出しづらいという課題がありました。そこで、日常的に使い慣れているLINEを活用し、顔を合わせなくても気軽に相談できるオンラインの窓口が必要だと考え、現在も運営を続けています。 また、インターネット上には真偽不明な情報が多く、不安を過度に抱いてしまう方も少なくありません。そのため、一人ひとりの状況に合った正確な情報をお伝えするとともに、気持ちに寄り添う支援を行うことを目的としています。
kikottoという相談窓口の意義を、どのようにお考えですか?
kikottoという相談窓口の意義は、保護者にとって「相談しやすく、安心して気持ちを打ち明けられる存在」であることだと考えています。常に寄り添う姿勢を大切にしながらも、単なる気休めにとどまらず、状況に応じた有効な手立てや具体的な提案ができる点に価値があります。 また、日々寄せられる相談を通じて、保護者の方々がどのようなことに悩み、何を求めているのかを明らかにできるため、その蓄積された情報自体が社会的にも重要な価値を持つと考えています。 さらに、団体にとっては、相談対応を通じて専門性の高い人材を育成する機会となり、継続的で質の高い支援につながる点も大きな意義の一つです。
kikottoを通じて、当事者家族や社会全体に与えている影響や波及効果はどのようなものだと感じていますか?
kikottoを通じてアプローチできている層は、現時点ではまだ限られていると感じていますが、支援を必要としているご家族にとっては、悩みの中で「この先どうすればよいのか」という見通しが持てるようになる点で、大きな影響を与えていると考えています。 また、人材育成の側面においても、相談対応を通じて育った相談員が、その後さまざまな分野で活躍しており、支援の輪が広がっていることを実感しています。 さらに、特に企業向けに展開しているkikottoの取り組みを通じて、支援を届けられる保護者や子ども、そして支援者の数が増えており、社会全体への波及効果も少しずつ生まれていると感じています。
kikottoならではの支援の特徴や、他の類似サービスとの差別化ポイントは何でしょうか?
近年、LINEを使った相談窓口や、AIに悩みを相談できるサービスは増えてきていると感じています。そのような中で、kikottoならではの支援の特徴は、これまでに蓄積してきた膨大な相談と回答のデータを、実践的な知見として活用できている点にあります。 それらの知見をもとに、ABAの理論に基づいた科学的根拠のある視点から、一人ひとりの状況に合わせた回答を行っています。さらに、すべての相談に対して必ず相談員が心を込めて向き合い、丁寧に返信していることも大きな差別化ポイントです。時には回答が長くなってしまうこともありますが、それだけ手厚く、真摯な支援を大切にしている点がkikottoの特徴だと考えています。
利用者にとって、kikottoを通して得た経験がどのような学びや一助につながっていると感じますか?
利用者の方々にとって、kikottoを通して得た経験は、大きな学びや支えにつながっていると感じています。kikottoの満足度は非常に高く、利用を終えられる方の多くは、金銭的な理由だけでなく、悩みが解決したり、先の見通しが立って気持ちに光が差したことで卒業されていくケースがほとんどです。 また、目の前の困りごとへの対処法を伝えるだけでなく、同じ悩みを繰り返さないための予防的な関わり方や、その背景にある理論までお伝えすることで、考え方そのものを身につけていただけるよう意識しています。 さらに、子どものできていることに目を向ける視点や、日々懸命に頑張っている保護者自身の姿に気づいてもらうことも大切にしています。親として「褒められる経験」が少なく、正解のない中で自信を持てずに悩みながらも努力を続けている保護者の方が、少しでも前向きに子育てと向き合うきっかけになっていれば嬉しいと感じています。
運営にあたって特に大切にしている価値観やビジョンがあれば教えてください。
運営にあたって特に大切にしている価値観は、利用者に寄り添う姿勢と、科学的根拠に基づいた知見を丁寧に届けることです。気持ちの面にしっかり寄り添いながらも、根拠のある情報や考え方を提供することで、安心して次の一歩を考えられる支援を目指しています。 また、一つひとつのやりとりの中で丁寧に話を聞き、背景や状況を正しく理解した上で対応することを重視しています。その積み重ねが信頼関係を築き、より質の高い支援につながると考えています。
kikottoをご利用されたご家族からの反応や、印象的なエピソードがあれば教えてください。
kikottoをご利用されたご家族からは、「kikottoを卒業します」という表現で退会のご連絡をいただくことがあり、それがとても印象に残っています。単にサービスをやめるのではなく、次に進む方向性が見え、他の支援にもつながり、ご家族で歩んでいけるだけの力や前向きな気持ちが蓄えられた証だと感じています。そのような形で役割を終えられることは、kikottoの支援がご家族の一助になっていることを実感できる大切な瞬間だと思っています。
kikottoを通して蓄積されている知見を社会に広めていく上で、どんな協力や連携を求めていますか?
kikottoを通して蓄積されている知見を社会に広めていくにあたっては、まず「発達相談」そのものがまだ十分に身近なものとして認知されておらず、相談への心理的なハードルが高い現状があると感じています。そのため、必要なときに誰もがもっと気軽にアクセスできるような周知や取り組みについて、協力や連携が進むことを期待しています。 また、支援の対象は家族だけに限られるものではなく、家族を取り巻く地域、学校や園、医療、福祉など、さまざまな立場が連携してこそ家族を支えることができると考えています。そうした現場に、kikottoで得られた知見を活かし、身近な支援の質を高めていくためのつながりを大切にしていきたいと考えています。
サポーターさまへのメッセージをどうぞ!
日頃より、ADDSの取り組みを温かく支えてくださり、本当にありがとうございます。 kikottoは有料サービスとして運営していますが、この事業単体ではまだ赤字の状況が続いています。 それでも、kikottoを単に事業として大きくしていくことを目的とするのではなく、ここで蓄積された知見や、関わる中で育ってきた人材が、より広い場面で大きな動きを生み出していけるのではないかと考えています。 試行錯誤を重ねながら一歩ずつ進んでいる途中ではありますが、その過程も含めて見守り、応援していただけましたら嬉しいです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



